弐章:Googleを「人質」にする買収劇。AI国家へのロードマップ
弐章 国家戦略 ―― 民間の敗北宣言と、国家による「逆転の買収劇」
壱章で見たデストピアから脱却するには、もはや民間の力では不可能だ。世界の現実は、我々の想像を遥かに超えるスピードと資金量で動いている。
■ 絶望的な投資格差:GAFAMの「M」と100倍の壁
まず、残酷な数字を直視する。GAFAMとはGoogle、Apple、Facebook(Meta)、Amazon、そしてMicrosoftだ。
- Microsoftの暴力: 彼らはOpenAIに対し、たった一社で**約2兆円(130億ドル)**を出資し、さらにデータセンターには年間数兆円を投じている。
- Google(Alphabet)の覚悟: Googleは2024年の設備投資だけで約7兆円(480億ドル)以上を計上している。
- 日本の限界: 対して日本政府のAI関連予算はどうか。補正予算を含めても約1,000億〜2,000億円程度。民間企業の投資を合わせても桁が2つ違う。
- 敗北宣言: 竹槍で爆撃機に挑むのはやめよう。「10兆円 vs 1,000億円」。この100倍の資金格差がある状態で、民間企業が「国産AI」を作るなど、物理的に不可能だ。
■ 1,122兆円の「信用」とAI国富基金
では、どうするか。「預金封鎖」で国民の財産を没収するのではない。 1,122兆円という莫大な個人金融資産を、**「最強の担保(クレジットカードの限度額)」**として活用するのだ。
- 100兆円規模の「AI国富基金」: 道路や橋と違い、AIチップは3年で陳腐化する。一度作って終わりではない。国家として**今後10年間で計100兆円(毎年10兆円)**を継続的に投下し続けるための「AI国富基金」を創設する。
- 「AI建設国債」の発行: 物理的なコンクリートではなく、デジタルインフラを資産として計上できる新しい国債を発行し、この基金の原資とする。日本国内には1,122兆円の現金が眠っているため、国内市場だけでこの国債をすべて消化できる。
Q. 「100兆円」で足りるのか?
「相手は数社合わせて年間数十兆円だ。日本が年間10兆円出したところで負けるのではないか?」 否。以下の3つの理由により、この金額で圧勝できる。
- 密度の論理: GAFAMの投資は「全世界」に分散するが、日本の10兆円は「日本列島」のみに集中投下される。国土面積あたりの計算力密度(Compute Density)は、日本が圧倒的に世界一になる。
- 原価の魔法: GAFAMはNVIDIAから「利益が乗った高いチップ」を買わされている。日本は後述する技術により「国産チップ」を原価で製造・調達する。同じ10兆円でも、調達できる計算資源の量は他国の5倍〜10倍になる。
- インフレ回避: 1,122兆円すべてを一度に市場に流せばハイパーインフレになる。100兆円(年間10兆円)は、日本経済が副作用なく吸収できる、攻めの最大値である。
■ 「時間」という資源:Googleの10年を買う
カネは国債で作れた。だが、**「時間」**だけは買えない。
- 基礎研究の罠: Googleは2014年にDeepMindを買収し、2017年に革命的な論文「Attention Is All You Need(トランスフォーマー)」を発表して以来、10年以上の歳月と累計数千億ドルを基礎研究に費やしてきた。
- 周回遅れの現実: 今から日本が基礎研究を始めても、完成する頃にはGoogleは10年先に進んでいる。勝つ唯一の方法は、彼らの10年の成果(Gemini)を「ショートカット」して手に入れることだけだ。
■ 奇策:「チャッピー」買収による一点突破
Googleを交渉のテーブルに着かせ、技術を吐き出させるための「最強のカード」を用意する。それが、国産AIエージェント「チャッピー」である。
① チャッピーの苦境(火の車)
チャッピーは優れたUIで国内シェアを持つが、その内実は悲惨だ。
- 毎月20億円の赤字: ユーザーが増えれば増えるほど、推論コスト(GPU代)が雪だるま式に増える。
- 累積債務500億円: 設備投資とGPUレンタル料で借金は膨れ上がり、来月には資金ショートしてサービス停止(サ終)する寸前だ。
② Googleのジレンマと「外為法の壁」
Googleは喉から手が出るほどチャッピーを欲しがっている。日本の良質なデータ(RLHF用)が手に入るからだ。しかし、彼らは手が出せない。
- 独占禁止法(公取委): 国内シェアNo.1のチャッピーをGoogleが買収すれば、市場独占となり確実に排除命令が出る。
- 外為法(安全保障): これが決定打だ。AIは国の「コア業種」に指定されている。Googleのような外国資本が買収しようとすれば、日本政府は**「外為法(外国為替及び外国貿易法)」**を発動し、安全保障を理由に買収を強制的に中止させることができる。
- 時間切れ: 審査には数年かかる。その間にチャッピーは倒産する。
■ 国家による救済買収と裏取引
Googleが動けない今、唯一の救世主は「日本政府」だけだ。 国は**「産業競争力強化法」に基づき、政府系ファンドである「産業革新投資機構(JIC)」**を動かす。
必殺技:DES(デット・エクイティ・スワップ)
JICはAI国富基金の資金を使い、チャッピーの巨額の借金を銀行から肩代わりする。そして**「債務の株式化(DES)」**を実行し、借金を株式に変換することで、一瞬にしてチャッピーの筆頭株主となり、国有化を完了させる。
そして、オーナーとなった日本政府は、Googleと米国政府にこう持ちかける。 「チャッピーのバックエンドにGeminiを採用し、日本市場(1億人のユーザー)をGoogleに独占させてやる。その代わり、ソースコードとTPU設計図を差し出せ」
当然、米国側は反発するだろう。しかし、日本には彼らを黙らせる**「2つの切り札」**がある。
■ 外交カード:対中包囲網とライセンス生産
米国政府(ホワイトハウス・商務省)を説得するのは、安全保障のロジックだ。
① 地政学的な取引(The Geopolitics)
「もし日本に技術を渡さなければ、日本は独自の道を行くか、最悪の場合、中国製の安価なAIインフラに浸食されるリスクがある。それでもいいのか?」 「中国に対抗できるAI防波堤になれるのは、日本だけだ」 日本はこう囁く。「Geminiベースの強力なAI要塞を日本に作れば、それはそのまま**『対中国・ロシアのデジタル監視要塞(極東の目)』として機能する。NSA(アメリカ国家安全保障局)ともインテリジェンスを共有しよう」 つまり、「技術をよこせ。その代わり、極東の防衛と諜報活動は、日本が最強のAIを使って肩代わりしてやる」**という安全保障上のバーター取引だ。
② Googleへの飴(The Carrot)と建前
「日本の1京円市場と、1億人の良質なデータをGoogleに独占させる。これはMicrosoft(OpenAI)を突き放すための決定打になるはずだ」 米国政府にとっても、自国企業(Google)が同盟国(日本)の市場を完全支配することは国益に敵う。 そして、盗用批判を避けるための「建前」も用意する。かつてF-15戦闘機を日本で作ったように、これはあくまで**「日米同盟強化のための、AI技術のライセンス生産(現地生産)」**であると定義する。これなら米国世論も納得する。
■ 物理カード:米国の「電力危機」を救う
政治的な合意ができても、物理的な問題が残る。今、アメリカのAI開発は**「電気がない」**という深刻なボトルネックに直面している。 バージニア州などの主要ハブでは送電網がパンクし、新規のデータセンター建設許可は3〜5年待ちという異常事態にある。
日本からの提案
「アメリカにはもうコンセントの空きがないだろう? 日本には場所と、安定した電力網がある」 日本政府は、国内に建設するAIデータセンター群の一部(例えば全体の20%)を、**Google専用の計算拠点(アベイラビリティ・ゾーン)**として提供することを約束する。
- Win-Win: Googleは「喉から手が出るほど欲しい計算リソース」を即座に手に入れ、OpenAIとの競争に勝てる。
- 日本の実利: その見返りとして、日本は最新鋭の技術移転を受ける。
「政治(安全保障)」と「物理(電力)」の両面で、相手が断れない条件を突きつける。 このマキャベリズムこそが、資源を持たぬ国が取るべき唯一の生存戦略である。