参章:九官鳥の言語学 ―― AIは「思考」していない、計算しているだけだ
参章 九官鳥の言語学 ―― AIは「思考」していない、計算しているだけだ
1,122兆円の信用を背景に、我々は100兆円という巨額を投じてAIインフラを構築する。 だが、投資する前に、その対象である「AI」の正体を、冷徹に直視しなければならない。 世間は「AIが考えた」「AIが意識を持った」と騒ぐが、それは技術を知らない素人の幻想だ。 ここにあるのは、魔法ではなく、「統計学」と「行列演算」の塊だけである。
■ トークン化:言葉を「数字」にすり替える(CPUの仕事)
AIは「こんにちは」という日本語を理解できない。 まず、前処理としてCPUが専用の辞書(トークナイザー)を使い、言葉を無機質な「数字(トークン)」に変換する。
- 例: 「吾輩は猫である」 →
[283, 11, 4920, 15, 33]ここまでは単なる置換作業だ。しかし、ここから先、**TPU(GoogleのAI専用チップ)**の出番となる。
■ ベクトル空間:意味の地図(TPUの仕事①)
TPUは、この数字を「数万次元」という、人間には知覚できない巨大な数学的空間(ベクトル空間)に配置する。
- 計算可能な意味: この空間では、意味の近い言葉は近くに配置される。「王様」から「男」を引き、「女」を足すと、座標が「女王」の場所へ移動する。
- 思考の正体: AIの「思考」とは、TPUがこの広大な空間の中で、数字の座標を猛烈なスピードで行列計算させているに過ぎない。
■ アテンション(Attention):指差し確認の暴力(TPUの仕事②)
なぜAIは会話が成立するのか。その秘密は「アテンション機構」にある。 AIは次の言葉を紡ぐ際、過去のすべての単語を**「指差し確認」**している。
- 例: 「昨日は雨だったが、今日は__」 この空欄を埋める時、TPUは数億個のパラメータ(重み)を使い、「雨」と「今日」という単語の関連度(Attention Score)を計算。「晴れた」という単語の重要度を跳ね上げる。
■ 確率の奴隷:P(Next | Context)(TPUの仕事③)
最終的にAIが行っているのは、**「次にくる確率が最も高い言葉」をサイコロを振って決めているだけだ。 この数式が全てだ。現在のAI(Geminiなど)は、この計算を毎秒100京回(エクサ級)**行い、人類の言葉使いを模倣している。
■ 結論:なぜ「1000倍」が必要なのか?
つまり、AIの本質は「超高性能な九官鳥」だ。 「人間とチャットを楽しむ」程度の、あまちょろい世界であれば、現在の毎秒100京回(エクサ級)の性能で十分だろう。これ以上の性能向上など不要だ。
だが、我々の目的はチャットではない。**「日本国土の全てをAI化(デジタル・ツイン化)」**することだ。
- チャットから、国家OSへ: 1億人の会話だけでなく、全国の信号機、電力網、物流トラック、気象データ。これら**「日本列島で発生する全ての事象」**をリアルタイムで取り込み、演算し、最適解を制御する。
- 2進数の限界: この「国家規模のシミュレーション」を行うには、現在の2進数デジタル計算機(0と1の近似値)では、遅延と誤差が大きすぎて追いつかない。
今の1000倍、すなわち毎秒25垓回(2.5 ZettaFLOPS)相当の計算力があって初めて、AIは画面の中から飛び出し、**「現実の日本と完全に同期(シンクロ)するOS」**となり得る。
しかし、既存のシリコンチップでそれをやれば、日本は熱で溶けてしまうだろう。 だからこそ、我々は**「0と1」というデジタルの足かせ**を捨て、新たな物理法則に手を出さなければならない。